いのちが「今」を重ねる布

福祉の現場で取り組まれる機会の多い「さをり織り」と、名だたるブランドのツイード生地を手がけるメーカーの織り。

ふたつの異なる表現が出会い、新たな可能性を秘めた生地が生まれました。

ヘラルボニーはこれまで、絵画をデータ化し製品へと展開することで、障害のある作家が描くアートを社会へ届けてきました。

今回、岩手県花巻にある『るんびにい美術館』、そして同じ花巻で製造業を営む『日本ホームスパン』との出会いを機に、「織り」という表現をより多くの人へ届ける挑戦が始まります。

ものづくりコンセプト

作家
良子 (ルンビニー苑)
Yoshiko

制作中の彼女は、ほとんど言葉を発さない。
織り機に向かい、完成を急ぐことなく、思いのままに手を動かし続ける。
糸を選び、装着し、踏みながら動かす。
その時間の積み重ねによって、布は少しずつ表情を帯びていく。
さをり織りという自由度の高い織りだからこそ、判断にとらわれず、感覚に委ねることのできる制作のあり方が読み取れる。
黙々と動く手の中で、糸は層となり、重なり合う。
その連なりから、彼女の日々が浮かび上がる。

あるがままを布に―さをり織りという思想

本プロジェクトは、作家・良子さんの手織りテキスタイルを日本ホームスパンが生地へと昇華し、ヘラルボニーがプロダクトとして届けるという試みです。

制作の軸となったのが「さをり織り」。織り手それぞれの感性を、そのまま布へと映し出す思想です。揺らぎも偶然も、均一でないことさえも必然として受け入れる。という感じです。「個の有り方を支持する基盤」として、個性という言葉より揺るぎない印象を与えられるような気がしました。

板垣さんはこう語ります。

「織り機の作業としてのシンプルさ、そしてどのようなものが生み出されても、全て正しい。こうなっていなければ失敗だというものが一切ない。 道から外れるというものは一切ないという思想観点。 この二つの組み合わせが、福祉の求めるもの、つまり多様な条件や特質を持った方が、何かを生み出すという表現としてマッチしているということだと思います」

評価や約束、逆算から自由であること。
それは、いまこの瞬間をそのまま重ねていく行為でもあります。

圧倒的な自由が紡いだツイード

始まりは日本ホームスパンの菊池さんが、さをり織りの作品に出会ったことでした。

「圧倒的な自由を感じました。いかに自分の世界を表現するか、今のひらめきをどれだけ大切にしているか。目の前の瞬間に全力だと感じました。効率や利便性を重視してきた自分たちにとって、大きな衝撃でした」

自由な色使いと軽やかな構造。
それはまるで、命そのものを織り込んだ布のよう。

板垣さんは続けます。

「逆算が一切ない。ただ“今”を重ねていった先に到達したもの。自然は約束をしません。完成物を目にしたとき、奇跡のような感動がありました」

約束から外れた存在とされてきた人たちを起点に、ものづくりをする。そこには、自然に近い在り方がありました。

実現に至る過程そのものが価値

完成形が見えないまま、作家と職人が現場を行き来し、対話を重ねる。プロフェッショナル同士の対話から生まれた無数のヒントが、少しずつ輪郭を描いていきました。

「製造する側としては、材料は少なく、同じものを繰り返す方が楽ですし精度も上がります。 ですが、今回そういう配慮を一切せず、テキスタイルを作る姿勢というのは、私たちも勉強になりましたし、そうあるべきだと感じましたね。作品に携わってみて、今自分が作りたいものは何なのか、考えさせられました」(菊池さん)

板垣さんも語ります。

「やはり、最終的に製品だけではなく、そこで起こった出来事まで含めて、全てが重要なプロセスだと思うんです。ヘラルボニーさんのこれまでのプロダクトも同様で、どんなコミュニケーションを作家さんや事業所さんと交わしたか、何で行き詰まり、葛藤して、どうやってそれを乗り超えたのか。障害のあるアーティストの方が起点になって、繋がって新しい物語を持った製品が生まれていくという、その時間まで全部含めて、とっても価値のあるものだと思います」

縦糸を張り、横糸を通すたびに、「今」が層となって重なっていく。布とは、時間の堆積なのかもしれません。

共鳴が開いた新しい扉

正解のない織りの中で、作家の“今”が緯糸(よこいと)に注がれ、日記のように積み重なっていく一点ものの生地。その布に最大限のリスペクトと手間を重ねることで、これまでにない奥行きを湛えたツイードが完成しました。

菊池さんは言います。

「関わる人みんなを幸せにしたいっていうのが、わたしの会社のやるべきこと、使命だと思っているんです。 わたしたちは織物を通して、いろいろな方々と幸せになろうというのは共通して目標にできました」

板垣さんもこう続けます。

「改めて、幸せを願うという理念、目指すものが根本で一致してるから生まれたものだったんですね。共鳴できる異業種同士の出会いというのは、そこに新しい響きを生む可能性があると思いました。本当にまだ全く予想もつかない何かが生まれる可能性がある。 楽しみです」。

福祉と、ものづくり。
ふたつの表現が交差する場所から生まれた、創造の軌跡。

その質感と余韻を、ぜひご自身の感覚で確かめてください。

ものづくりコンセプト

菊池久範
Hisanori Kikuchi

岩手県・花巻にある株式会社日本ホームスパン代表取締役社長。
手紡ぎ、手織りの伝統技術を継承しながら、現代的なデザインとの融合に取り組む。
そのクオリティと発想は、世界のファッションブランドから注目されている。

ものづくりコンセプト

板垣崇志
Takashi Itagaki

1971年花巻市生まれ。
社会福祉法人光林会「るんびにい美術館」アートディレクター。
同美術館開館時より中心的な役割を果たす。
ヘラルボニーとの関わりも深く、代表である松田兄弟と共にさまざまなプロジェクトを展開している。

共創記念トークイベント

日本ホームスパン×ヘラルボニー

〜いのちが「今」を重ねる布〜

今回のコラボレーションを記念したイベントを開催いたします。事前申込制となりますので、下記フォームよりお申し込みください。

HERALBONY ISAI PARK
〒020-8655
岩手県盛岡市菜園1-10-1

2026年3月21日(土)

当日のプログラム

11:00-12:00
子どもたちによるダンス&さんさ踊りパフォーマンス

13:30~14:15
日本ホームスパン×ヘラルボニー
共創記念トークイベント
〜いのちが「今」を重ねる布〜
登壇者:板垣崇志氏 × 菊池久範氏 × 松田文登(モデレーター)

14:45~15:15
作家在廊イベント「さをり織り」公開製作
作家:良子氏
お申し込みはこちら

Creative Direction: MIU(HERALBONY)
Text: Mio Goto
Photography: Takumi Kimura(HERALBONY)
Videography: Yui Sugawara