「アートが描ける・描けないを超えて。ヘラルボニーは私たちの希望」人気ショップWitty Vintageオーナーインタビュー

ヘラルボニーを応援してくださっている方々に話を聞きにいく連載「HERALBONY&PEOPLE」。この連載では、普段から私たちの活動やビジネスに共鳴してくださっているあらゆるジャンルの皆さんにインタビューをしていきます。  

今回は、ファッション業界や古着好きから熱狂的な支持を集める“ヴィンテージ好きの聖地”――。目黒区・祐天寺にお店を構えるヴィンテージショップ「Witty Vintage(ウィッティ ヴィンテージ)」のオーナー赤嶺れいこ(あかみね・れいこ)さんが登場。

実はダウン症のお子さんを育てる母でもある赤嶺さんは、以前から熱烈なヘラルボニーファンであることを公言してくださっています。ヘラルボニーが異彩の日(1月31日)に実施したSNSプロジェクト「あなたの違いはなんですか?」においても、赤嶺さんの投稿は多くの共感と感動を呼び、彼女から発せられる言葉のひとつひとつが人の心を惹きつけています。

そして今回「Witty Vintage」とヘラルボニーとのコラボレーションが実現。赤嶺さんがヘラルボニーに共鳴する理由、今回のコラボへの思いを語っていただきます。

人気ヴィンテージショップのオーナーは、熱烈なヘラルボニーファン

広い店内には、主にアメリカで買い付けたヴィンテージアイテムが並びます。閑静な住宅街にひっそりとたたずむ「ウィッティ ヴィンテージ」。コンセプトは、大人の女性のためのウィットに富んだヴィンテージウェア。夫の赤嶺優樹さんがバイイングを、赤嶺さんはディレクションを担当しているそう。しゃれたミントグリーンの扉を開けると、そこにはハイトーンのヘアにヘラルボニーのスカーフを颯爽と巻いた赤嶺さんが、にこやかに出迎えてくださっていました。
Witty Vintageオーナー 赤嶺れいこさん――今回「ウィッティ ヴィンテージ」さんとのコラボレーションが実現してとても嬉しいです。昨年ご連絡をいただいてから「ぜひ、何かでご一緒したい」そう思い続けていたんです。まずは改めて、ヘラルボニーとの出会いからお話いただけますか?

赤嶺れいこさん(以下、赤嶺):最初はインスタグラムで発見しました。「何だろう?」って見てみたら、障害がある方の作品を元にものづくりをしているというので、俄然、興味が湧いたんです。そこからブランドのYouTubeをチェックしたり、代表の方がナビゲートしているポッドキャストを聞いたり、書籍『異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―』を読んだり…。知れば知るほど「すごいな」って思いました。

――ありがとうございます。どんなところをそんなに「すごい」と思っていただけたのでしょうか?

赤嶺:うちにもダウン症の息子がいるので、普段から児童福祉施設や障害者支援施設などを意識していました。ちょっと失礼な言い方で申し訳ないんですが、一般的に福祉工房などで売られているものって、正直、ダサい。ファッションに携わる私たちからすると、「ちゃんとプロデュースしたら売れるのに。いつか自分たちも関わってみたいね」と夫とも話していたんです。ヘラルボニーはそこを上手に落とし込んでいるからすごい! なんか上からですみません(笑)。

そこから一気にヘラルボニーのファンになりました。私もこういう仕事をしているので、「何か一緒にできるんじゃないか」って勝手に盛り上がってしまって。いてもたってもいられず、気づいたら代表である松田兄弟のインスタグラムにDM(ダイレクトメッセージ)を送っていました。

シルクスカーフ「かえでのチョキチョキ」 ¥22,000(税込)>> 商品を見る

――そこまで思っていただけたなんて光栄です。そして、すごい行動力ですね!


赤嶺:中学生の時、好きな先輩に手紙を送ったような心境です(笑)。DMを送ったものの、一向に既読にならなかったんですよね。それで、投稿画面なら気づいてもらえるかもしれない、と投稿に「DMを送ったのでご確認ください」というコメントもしました。それでもまだ既読にならなかったんですが、少しずつヘラルボニーの社員の方が、私のアカウントをフォローしてくれるようになったんです。「ちょっと近づいてきた!」って嬉しくなりました。

その後、会社の問い合わせフォームからご連絡したところ、すぐに返信いただいて。「ぜひ一度お話を聞かせてください」という文面をみた瞬間、「キターーー!」って(笑)。昨年の9月にヘラルボニーのことを知って、11月にはコラボレーションすることが決まったので、「行動すれば夢は叶う」そう実感した出来事でした。

ファッションには、問題提起を真っ直ぐに届ける力がある

marinamoji T-shirts ¥12,100(税込)――そこから少し時間はかかりましたが、やっとご一緒できましたね!

赤嶺:コラボ商品では、うちのヴィンテージアイテムにヘラルボニーの契約作家さんのアートを、手刷りや刺繍で入れています。ヴィンテージって唯一無二のものがほとんど。例えば、ユニフォームなどのスクールものだと名前が書かれていたり、独自のペイントや刺繍が施されていたり…。単なる古い服というより、誰かのストーリーの一部をまとっているようなところがある。そこにアート表現が融合することで、全く新しい意味が生まれるような気がしています。

今回使用したシルクスクリーン。スタッフが一枚一枚、手刷りで仕上げた――選ばれたのはmarinaさんの作品ですよね。その理由を教えてください。

赤嶺:最初に拝見した時は、「何だこの不思議な文字は?」と驚きました(笑)。marinaさんもダウン症でいらっしゃるということもあり、うちの家族のストーリーともリンクするので、ぜひお願いしたいと思ったんです。

デザイン的なことでいうと、額縁に入れるようないわゆる「絵」よりもタイポグラフィのほうがファッションと相性がよかった、というのもあります。

作家marinaは、古代なのか宇宙なのか未来の言語なのか、彼女なりのタイポグラフィをノート一面に書き綴る。
>> 作家marinaの制作風景はこちら

――コラボレーションするにあたって、こだわった点はありますか?

赤嶺:従来のヘラルボニーのお客様から、めちゃくちゃファッション好きの方まで、そのどちらにもハマる“真ん中”を狙いました。ハイエンドなファッションに寄せすぎて、「ちょっとこれは着られないな」と思われないアイテム、デザインにしたいと思って。なので、Tシャツやチノパンなど、ベーシックで誰もが取り入れやすいものにしています。

何か社会的な問題を知ってもらいたい時、ネガティブなことではなく、楽しいことで伝えるのがいいと思っていて。場の空気やエネルギーは、楽しいことに使ったほうが絶対いい方向に進む。ファッションにはその力があると信じています。

ノートはmarinaさんが常日頃から書き溜めているもの

――今回のような「手刷り」はヘラルボニーでも始めての試みでした。アートの再現性をいかに保てるかを考えた時、力加減や生地の質感でブレが出ます。ただ、marinaさん自身も新しいことに挑戦したいという思いもあり、「ウィッティ ヴィンテージ」さんとこんなに素敵なコラボレーションが叶いました。

ただ美しいだけじゃない。ヘラルボニーのアートが人を惹きつける理由

「スカーフが一番とり入れやすい」と赤嶺さん。こちらは腰に巻いたスタイル シルクサテンスカーフ「タイトル不明」 ¥63,800(税込)>>商品を見る

――ダウン症の息子さんと暮らす赤嶺さんから見て、障害があることで生まれるアートの原動力は、どこにあると思われますか?

赤嶺:ただただ生まれちゃったのかな。例えばうちの息子は、ごはんを食べる時に、お皿とスプーンをカンカン打ち付けることを突然やりだすんです。あまりに激しいので、デイサービスの方に相談したことがあって。「こういう時、どうしたらいいですか?」って聞いたら、「僕だったら一緒に遊びます。ただ楽しんでいるだけなので」と言われたんです。

だから、ただ楽しんでやっている行動、カンカン鳴らしたり、踊りだしたり、それがアートを描く人は絵筆になっているのかな、って思っています。


――そうですね。marinaさんの創作動画を拝見しても、とても楽しそうに躊躇なく描かれているのが印象的です。根本的に頭で考えて描く作為的なアートと、本能に近い感覚で描くアートは別ものなのかもしれません。

赤嶺:たぶん私たちも、生まれた時には絶対あったはずなんですよ。大人になるにつれて忘れていっているだけで。そう考えると、ずっとその感覚を持ち続けられているのは、ある意味、めちゃくちゃ幸せなことなのかもしれません。

ソックス「(無題)(車)」 ¥4,950(税込)

――ヘラルボニーの作家のアートが、ここまで人を惹きつける理由って何だと思いますか?

赤嶺:正直、私はアートってぜんぜんわからないんですよ。「ヴィンテージTシャツに開いている穴、これこそアートでしょ!」って思っているくらい(笑)。だからヘラルボニーのことも、息子がいることもあって障害から入りました。「背景を知らずにアートが素敵だなと思ったら、障害のある方が描いたものだった」って、よく聞く話ですよね。

本当は私もそう言いたい。世の中的にみると、アートから入った方が感性が高いと思われているじゃないですか。たぶん現代アートの見方として、純粋さとかフラットさが求められる傾向にあるからだと思うんですが。

ただ私はそれを否定したいわけではなく、どっちもあっていいと思っていて。ヘラルボニーのアートが人を惹きつけるのは、アートが美しい、個性的だ、だけではなく、その背景ごと受け取る設計が、とても巧みにできているからだと思うんです。アートから入った人も、福祉から入った人も、どちらも許容したうえでビジネスとして社会との接点を自然につくっている、そこが本当にすごい。

――赤嶺さんのようなファッションを生業としている感度の高い方に「アートがわからない」と話していただくと、「あ、それでもいいんだ」とヘラルボニーに興味を持ってくださる方の間口が広がりそうです。

「息子のおかげで成長できる」ヘラルボニーがそう思わせてくれた

――赤嶺さんからみて、ヘラルボニーが社会に与えているインパクトは、どういったものがあると思われますか?

赤嶺:私たち障害のある子どもを育てている親からすると、ヘラルボニーの存在は励みであり希望です。私は息子のことを受け入れていますし、受け入れるタイミングも早かった方だと思います。でも、世の中にはそうじゃない親御さんもいる。そんな方にとって、たとえ自分の子どもがアーティストになれなくても、「自分たちもこの異彩を放つアーティストの仲間なんだ!」、そう思えることで勇気がもらえるんです。

以前、代表の方が「障害のある方のアートをセンセーショナルなものにしたくない」というようなことをおっしゃっていました。みんながみんな絵を描けるわけではない。同じ障害のある人でも、「うちは何も才能がないんだ…」そう親御さんにショックを受けてほしくないからだと。それを聞いて、「めちゃくちゃ分かる!」って思ったんですよ。

うちの息子もアートを描けるわけではないけれど、息子がいることで私も成長できている。だから、「異彩を放つ子どもを育てていて、うちの家族だけ成長しちゃってすいません!」そんな気持ちでいます(笑)。ちょっと皮肉に聞こえるかもしれませんが、そう思わないとやっていけない時期もありました。

そこをポジティブに捉えられるようになったのって、やっぱりヘラルボニーの存在が大きい。そう思っていらっしゃる親御さんは多いんじゃないでしょうか。

赤嶺:子どもにとって一番近い存在が親です。その親がどういう目線でその子を見ているかが、すごく大事だと思っていて。例えば、「この子は障害があるし、何もできないんだよね」と思って育てるのと、「この子は異彩なんだ、このままでいいんだ」そう思って育てるのとでは、子どもの成長具合もぜんぜん違ってくると思います。

物理学の中に量子力学という分野があって、その中に「観測者効果」という現象があります。簡単に説明すると、「“誰かが見る(=観測者がいる)“ことで、そのものの状態が変わる」というもの。例えば、誰もみていない部屋でくつろぐのと、誰かに見られながらくつろぐのとでは、自分の振る舞いも変わりますよね。

先ほどの息子がスプーンをカンカン鳴らす行為も、「うるさい!」と思って見る時と、「音を楽しんでいるのかな、人と関わろうとしているのかも」そう思ってみる時とでは、私自身の対応も、息子のふるまいも変わってくるんです。つまり、見る側の意識が変わることで、世界の見え方や関係性までもがリアルに変わってしまう。これは単なる比喩ではないと、子どもを育てる中で実感しています。

赤嶺:同じように、ヘラルボニーが社会に投げかけているのは「見るまなざしの変容」だと思います。障害という概念にとらわれず、まずはその人のアートを「美しい」と思って受け取ってみる。さらに、そのアート作品やプロダクトを社会に流通させることで、「見る」行為を自然とポジティブなものへと変容させているのかな、と。

ヘラルボニーを知ったことで、私自身も息子を見る目が変わり、「どうしてこの子を育てているんだろう」から、「この子を見ていることで、私の世界が変わっていくんだ」そう変化しました。これは本当に大きな価値だと思っています。

最後に、ヘラルボニーで働きたいと思う人や、支援する人が増え、今のような分離教育がなくなっていけば、きっと偏見すらもなくなる、そんな未来を願っています。

HERALBONY | Witty Vintage コラボレーションアイテム

marinamoji Low Cap ¥9,350(税込)※刺繍仕上げmarinamoji T-shirt ¥11,000円(税込)marinamoji bandanna ¥3,850(税込)marinamoji Denim Jacket ¥55,000(税込)marinamoji Denim Pants ¥38,500(税込)marinamoji Chinos ¥38,500(税込)販売情報

◆ HERALBONY LABOLATORY GINZA
・店頭販売開始日:6月13日(金)〜
住所:東京都中央区銀座2丁目5−16 銀冨ビル 1F(MAP
・取り扱いアイテム:marinamoji bandanna(バンダナ)/marinamoji T-shirt(Tシャツ)/Low Cap(キャップ)
※ヘラルボニー公式オンラインストアでの販売はございません。

◆ Witty Vintage
・店頭販売開始日:6月6日(金)13:00〜
住所:東京都目黒区五本木2丁目13−1(MAP
・オンライン販売開始日:6月6日(金)21:00〜
Witty Vintage 公式ホームページはこちら
・取り扱いアイテム:全商品
Witty Vintage(ウィッティ ヴィンテージ)Witty Vintageの店頭、オンラインショップで30,000円(税込)以上(コラボアイテムの合計)お買い上げの方に、「marinamoji mirror 」をプレゼントいたします。※ヘラルボニー銀座店では、「marinamoji mirror 」のお渡しはございませんのでご注意ください。


作家marinaのアートが起用されたアイテム>> フーディ「marina-moji10」