自分をさらけ出す「恐れ」を乗り越えて 森田美勇人が目指す「心ファースト」な生き方【前編】

ヘラルボニーを応援してくださっている方々に話を聞きにいく連載「HERALBONY&PEOPLE」。この連載では、普段からヘラルボニーの活動やビジネスに共鳴してくださっているあらゆるジャンルの皆さんにインタビューをしていきます。

今回は、アーティストとして音楽やアートで表現をおこなう傍ら、「FLATLAND」のディレクターを務める森田美勇人さんが登場。9歳の頃からエンターテインメント業界に足を踏み入れた森田さんは、プロアーティストとしての研鑽を積んだ後、独立。2021年には自身の思いを形にするプロジェクト「FLATLAND」を立ち上げ、音楽からファッション、アートまで幅広く活動の場を広げています。

コピー機を使って作品を描く作家、井口直人さんのアートをコラージュしたロングTシャツに、HERALBONY Art Prize 2024グランプリ作家・浅野春香の「ヒョウカ」のスカーフ(※非売品)を合わせた森田さん。ご自身の生き方やスタンスに多大な影響を与えたのは、障害のある弟さんでした。ご自身もアートを描かれる森田さんが最初にヘラルボニーに興味を持ったのは、作品やアーティストがもつエネルギーだったそう。これから前後編にわたって森田さんのルーツや考え方を探ります。

>> 森田さん着用アイテムはこちら:ロングスリーブTシャツ「無題」(B)

作家のピュアな表現に触れ、幸福感に包まれた

浅野春香「ヒョウカ」(HERALBONY Art Prize2024 グランプリ受賞作品)

―――ヘラルボニーの活動に興味を持っていただき、応援してくださりとても嬉しいです。まず、森田さんがヘラルボニーのことを知ったきっかけから教えていただけますか?

森田美勇人さん(以下、森田):もともとアートが好きで、自分でも抽象画を描いています。ある時、友人からアール・ブリュット(※1)というジャンルを紹介されて、興味を持ったのがきっかけです。その頃にはすでにヘラルボニーは有名だったので、友人との会話の中にも自然と名前があがっていました。そこから色々調べていくうちに、やまなみ工房(※2)のことを知り、所属する作家さんにも興味を持つようになりました。どんな人が作品を描いているのかも気になって、昨年、実際に工房を訪ねました。

※1 専門的な美術教育を受けていない人が、自身の内面から湧き上がる衝動のままに表現した芸術のこと。フランス語で「生の芸術」を意味する。
※2 やまなみ工房:滋賀県甲賀市にある福祉施設。国内外から注目される作家を多く輩出している。ヘラルボニーの契約作家も多数在籍しており、以前HERALBOY JOURNALでは施設長の山下完和さんにインタビューを行った。
>>福祉界のレジェンドが語る「僕が人を100%肯定できる理由」 やまなみ工房施設長インタビュー

―――工房で作家さんと触れ合ったことを通して、気づきはありましたか?

森田:たくさんありました。作品やアーティストから、エネルギーとパワーを感じます。ピュアな表現を目の当たりにした時、「ああ、ここは幸せな場所だ」と幸福感に包まれたんです。僕は一人の人間として、これまで自分の内面を素直に表に出すことをしてこなかった。純粋にアートを楽しんでいる工房の人たちの姿勢に、心が動かされて好奇心を刺激されましたね。

自分をさらすことは、勇気がいること

―――ヘラルボニーとは、「異彩の日(1月31日)」SNSプロジェクトでご一緒しました。

森田:プロジェクトのテーマが「あなたの『ちがい』はなんですか?」というものだったのですがーー短いながら、ハッとさせられるキャッチですよね。ヘラルボニー節が効いているなと(笑)。話題を作る力を持っているヘラルボニーならではの「企画の鋭さ」を感じました。障害や健常の枠にとらわれず、「異彩」の一人として僕に声をかけてもらえたことが嬉しかったですね。

>> 森田さんの「異彩の日」instagram投稿はこちら

―――森田さんが丁寧に紡がれた言葉が印象的でした。

森田:「どこにいてもうまくなじめない」という話を書きました。あまり自分のことを話すのが得意ではないので、できることなら、気持ちを悟られずまわりに馴染んでいたいタイプなんです。でも「ちがいはなに?」と聞かれたからには、答えないといけない(笑)。いざ出してみると、意外な反応が返ってきて。

「そんなに繊細だったの?」とか「そんなことを考えていたの?」とか。「もっとカラッと笑っている人なのかと思っていた」と驚く人もいれば、「あなたらしいね」と言ってくれる人もいました。自分としては、“恥ずかしい気持ち”をさらしたような感じ。

付き合いのある相手によっては、その言葉にびっくりする人もいるかもしれないな、と悩んだんです。でも、思い切って話してしまったほうが、その後その人の関係性に偽りがなく、より自然体でいられる気がしました。相手も、僕に対する理解を深めてくれたと思います。

このプロジェクトを通して、自分の言葉を受け取ってくれる人がいて、コミュニケーションが生まれた。言葉が人に触れて風にさらされることで、思いが形となって、実感が得られるのだなと感じました。これまで自己完結で終わることが多かったので、トライして本当によかったと思っています。思いをちゃんと言わなきゃ伝わらないのは当たり前のことですが、なかなか難しく、勇気のいることですよね。いろんな反響があったということは、それだけ普段やっぱり人には伝えられていないことが多いのだと、改めて知ることができましたね。

障害のあるアーティストを尊敬する理由

―――SNSが普及した今、自然体でいることが難しい時もありますね。

森田:特にSNSでは自分をよく見せる加工アプリみたいに、フィルターをかけてしまいがちですよね。僕が今まで自然体でいることができなかったのは、着飾ってショーアップ(盛り上げる)するエンタメの世界に身を置き続けてきたからもあります。でも、自分にはできないと気づいて挫折した経験があったからこそ、次の道が開けた。周りの目を気にしたり、需要や供給の側面から自分の見せ方を考えてきたりしていたけれど、今はありのままの自分を見せてコミュニケーションができるようになったことが嬉しいですね。

昨年は初めて絵の個展を開催し、音楽でも初めてソロ活動を始めた年でした。自分で絵や曲を作って発表することは、自分にとっては「異彩の日」プロジェクトと同じような“恥ずかしい部分”をさらすような気持ちなんですよ。でも1年が経って、この表現も「自分らしさ」なんだと思えるようになって、人前で話せるようになった。人とつながるためには、もっと自分をださないといけないなと痛感しています。だからヘラルボニーややまなみ工房のアーティストたちの強さに惹かれるし、改めて尊敬しています。

障害のある方とはアートだけでなく、ダンスでも交流を深めています。ダウン症の子供たちのダンススクール「スリーセブン」にたまに行って、レッスンに参加しています。みんな心から音楽を楽しんで体を動かしていて、その人の喜怒哀楽の感情がありありと伝わるんです。純粋に踊っている姿をみると、きっと表現の根源だなぁって思うんですよね。

S. Proski「Untitled」(HERALBONY Art Prize2024 審査員特別賞受賞作品)

僕の肩書きは「自己表現を追求する人」


―――ダンスから歌、アート、アパレルデザイン、写真まで本当に幅広く活動されていますよね。

森田:いろんなジャンルに広がり始めたきっかけは、表現方法は違うけど全部がつながっていると気づいたから。物事に触れて心が動いて、それを表現として発信していきたいというプロセスは変わらなくて、絵やファッションや写真といったツールで表現の仕方を使い分けているようなイメージですね。たとえばダンスでは、シルエットと動きに注目します。シルエットを考えた時、踊る時にまとう洋服も重要だから、「じゃあ服を作ろう」となる。そんな感じで活動が広がっていきました。

今の僕の肩書きってなんだろう?と考えた時、 “自己表現を追求する人” が一番しっくりきます。自分の引き出しを、もっと柔軟に広げていきたいです。

―――数珠繋ぎのように、表現の幅が広がっていったのですね。

森田:エンタメの世界では、たくさんのことを学べました。ですがいざアウトプットするとなった時、自分をショーアップすることにどこか違和感を覚えたんです。もっと自分の中の純粋な「心ファースト」な動き方や表現の仕方を模索したら、今の自分に行き着きました。

自分の胸の内を見せないことの美学も、プロからたくさん教えてもらいました。事務所のタレントとして活動していく中では、自己発信の場はなかなか持てません。自己表現の場であるFLATLANDの設立は、僕にとっては大きなチャレンジでした。でも、好きだから続くだろうなと思って飛び込んだ。間違いなく人生のターニングポイントでしたね。

後編は、「心ファースト」の生き方を教えてくれた弟さんの存在、フラットな視点を持てた理由、そしてFLATLANDで描く未来についてもうかがいます。

>> 後編はこちら:自分を大きく見せるのをやめた。森田美勇人がダウン症の弟から学んだこと【後編】

森田美勇人さん着用アイテム / 作家紹介


作家・井口 直人はコピー機を用い、自分の顔とその時々の気に入ったものを写し取るアーティスト。20年以上毎日通い続けている近所のコンビニでは、店員が丁寧にガラス面の顔の跡を拭き取ってくれるなど、地域の理解と協力のもと日々作品を生み出しています。ガラス面に顔を押し付け、センサー光の動きに合わせて身体を動かすことで生まれる歪みが独特の存在感を放ち、数々のアートコレクターにも収集されている作家です。

今回のアイテムでは、身体を揺らしながら写し取る独特な制作スタイルを、躍動感のあるプリントで大胆に再現しました。

>> 井口 直人の作品一覧および制作ムービーはこちら

【新作】井口直人のショートスリーブTシャツ発売


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