ゾウは本当に灰色なのか。作家・小林泰寛にしか見えない色彩世界【異彩通信#5】

「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。

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こんにちは、Marieです。

突然ですが、あなたにとって象は何色に見えますか?

「インド象」

淡い緑で描かれたこの象は、見慣れた灰色の象と比べて、個性的でどこか優しい雰囲気を醸し出しています。ある異彩作家さんの目には、象はこんな鮮やかなグリーンに見えているかもしれない。今日はそんなお話です。

小林泰寛だけが見ている色

先ほどの作品「インド象」を描いた小林 泰寛(Yasuhiro Kobayashi)さんは、自閉症の異彩作家。福岡県福岡市にある福祉施設JOY俱楽部アトリエブラヴォに所属しています。世界遺産や広大な風景の写真をモチーフに描き、先日まで盛岡のHERALBONY GALLERYで開催していた企画展「部屋と外」の、「外」の部分を担っていた作家さんでもあります。

ところで彼の作品、よく見るとある共通点がありませんか?
そう、緑色が多く使われているんです。

実は、小林さんは色覚障害の持ち主。「赤」と「緑」を同じ色に感じる、といったような特性があります。

こちらの作品は、どの時間帯の風景を描いたものだと思いますか?
青空を照らす太陽? それとも夜空に浮かぶ月?

昼にも夜にも見える不思議な風景に、吸い込まれていきそう。

実はこの作品のタイトルは「夕暮れの月」。小林さんの目に映る夕暮れの空なのです。

「赤と緑」以外にも、色覚障害のある方は「深緑と茶色」、「青と紫」、「水色とピンク」、といった色も同じように感じるといいます。

「階段を上り下りするミケネコ」[SOLD OUT]
三毛猫の模様も、小林さんにとっては鮮やかな緑色。
「雲と紫の光」

小林さんの眼を通して描かれた空は、うっとりするような紫色。多くの人からすると新鮮で幻想的な世界を、私たちは彼の作品を通して感じることができます。

そして、私たち一人ひとりも、少しずつ違う自分だけの色が見えているのだと思います。

「誰もが自分だけの感性を持っているからこそ、みな素晴らしい」そんな当たり前のようでいて忘れがちな大切な事実を、小林さんの作品は思い出させてくれるのだと思います。

あなたの目には、夕焼けの空は、三毛猫は、何色に見えますか?

無数の緑が彩る世界

見る人の心を奪う小林さんの作品の魅力は、色覚によるものだけではありません。

小林さんは作品づくりにおいて「色」に大きなこだわりを持っています。一箇所を塗るために、何回も色を混ぜ合わせて、納得のいく一色を作り出します。塗り直しは好きではないそうで、ときに塗る前に十回以上も色を調合することも。施設の方によると、思いもよらない色同士を混ぜ合わせることで、どんどん深みのある色が生まれるのだそう。

そんなこだわりを感じていただける作品をいくつかご紹介します。
「小島で休憩するホッキョクグマ」[SOLD OUT]
カラフルな主線で描かれた親子のホッキョクグマですが、足元にご注目を。岩場を構成する緑や青色の中にも、繊細なトーンの違いを感じていただけると思います。
「アドリア海のサント・ステファン島」

広大な海と自然を感じさせる風景画ですが、じっくり眺めると、いくつもの青と緑を発見することができます。例えば海を描いた深い青も、よく見てみると微妙に違う色合いで描き分けられていたり、画面右下の木々も、ターコイズに近い緑から若草色まで多様な緑が使われていたりしますね。

これほどストイックなこだわりを持つ小林さん、実は超がつくほどの負けず嫌いで、自分が得意なことは一番でいたいそう。だからこそ、絶妙な色出しに気付いてもらえるととても嬉しいのだと言います。

カップ麺を神仏に例えたラーメン日記

小林さんはラーメンが大好き。特に期間限定や新商品には目がなく、休日の朝に食べるカップ麺を楽しみにお仕事を頑張っているそう。彼の「ラーメン日記」には、いままで食べたラーメンが忠実なイラストとともに記録されています。
絵の色使いなど、お母様が横で見守りながら一緒に描くという、親子の共作。カップ麺のイラストと食べた後の感想をまとめているのですが、幼少期から仏像が大好きで、数え切れないほどの神仏巡りをしている(行った日付まで全て正確に覚えているそう…!)小林さんならではの「神と仏に例えると」なんていう項目も!

<マルちゃん津軽煮干しラーメン「激にぼ」の日記>
感想:「煮干し粉が入ってたよ。ラーメンに入れたら激にぼになった。凄いよ!元気になれるね。そして、旨かった!」

神と仏に例えると:「青森といえばねぶた祭りだけど、僕は恐山菩薩寺に行ってみたいです。御本尊の延命菩薩に会いたい(日本三大霊場の一つ)だって。ちょっと恐いな!」

<日清「チキンラーメン」の日記>
感想:「お湯かけ3分。煮込んで1分。チキンラーメンは、世界初のインスタントラーメンです。108番は、これに決まりだ。」

もう、読んでいるだけでお腹が空いてきませんか?

Instagramでも発信されているので、ぜひ小林さんのラーメン愛あふれる感想文をチェックしてみてください。

全て1点限り。異彩作品をご自宅に

企画展「部屋と外」の会期は終了しましたが、オンラインストアでは小林泰寛さんの作品、全39作品を2月末まで販売中です。彼の作品をお部屋に飾れば、いつもの暮らしに新しい色が差し込むかもしれません。あなたの心に響く作品を、ぜひ見つけてみてください。※すでに売約済みの作品もございます。あらかじめご了承ください。

>>> 小林泰寛さんの作品一覧をチェック

>>> 企画展「部屋と外」作品一覧をチェック

小林 泰寛 Yasuhiro Kobayashi


1986年生まれ。またの名を巨匠。ただ無心に、ただ几帳面に、好きな世界遺産や広大な風景の写真を描く。無数の緑色がとくに美しい。赤と緑を同じ色に感じるので、青磁の壺はやさしいピンク色、人物の顔は薄緑色。仏像の名前をどれもピタリと言い当て、道ばたにお地蔵様を見つけては拝礼。最近は刺繍という新しい挑戦も楽しんでいる。