堀井美香さんトークセッション--ちゃんとできない自分のままで、生きていく。前編

今年も6月17日から22日までの6日間、阪急うめだ本店にてポップアップイベントを開催しました。阪急うめだ本店でのPOPUPイベントは2022年の初開催から数えて4回目となります。

阪急うめだ本店は、「WITH Good Harmony」をストアメッセージに掲げ、多様性やより良い未来につながる取り組みを積極的に発信しています。その姿勢は、ヘラルボニーが目指す「異彩を社会の中心に届け、新しい文化を創る」というビジョンと深く共鳴しています。私たちにとってこの場所は、障害のある作家の表現を「福祉」の枠組みを超え、一つのアートやカルチャーとして多くの人に届けられる特別な舞台です。

今年のテーマは「HERALBONY ART PARK」。公園を散策するように、来場者が自由に歩き回り、それぞれの視点でアートと出会い、楽しめる場を目指しました。作品との出会いを通じて感性が揺さぶられ、価値観が少しずつ更新されていく――。4回にわたる開催の積み重ねは、「新しい文化」を社会に根づかせていく挑戦の軌跡でもあります。

会期中の6月20日には、フリーアナウンサーの堀井美香さんをゲストに迎え、松田崇弥・松田文登とのトークイベントを開催。「ちゃんとできない自分のままで、生きていく。」をテーマに、“普通”への違和感や、それぞれの感性の違いを認め合いながら、自分らしく生きることについて語り合いました。本記事では、その模様をレポートします。

多様な人が当たり前に集う「HERALBONY ART PARK」

ポッドキャストやナレーション、最近では俳優としても活躍する堀井美香さん。会場には200人以上ものお客様が集まり、熱気ある空間となりました。これまでもヘラルボニーのトークセッションに登場いただいていることもあり、とても楽しい雰囲気でトークが始まりました。

司会:まずは堀井さんとヘラルボニーの出会いからお聞きしてもいいですか? 共同代表の松田崇弥が堀井さんのポッドキャストに出演したところからでしたよね?

松田崇弥(以下、崇弥):そうなんです。一番最初は、堀井美香さんがポッドキャストのMCを務められている番組にゲストとして出演させていただきました。その際にとてもヘラルボニーに興味を持ってくださって。そこから商品のご購入もいただいたそうで、本当にありがたいです。

堀井美香(以下、堀井):2023年なので、3年ほど前だと思います。その時は、福祉とアートを掛け合わせたスタートアップの企業という紹介の仕方でお迎えしたんですよね。この3年でなんと世界にまで行かれて、本当にすごいなと思って拝見しておりました。

崇弥:ありがとうございます。私たち自身も阪急うめだは、毎回毎回大きい挑戦で、9階 祝祭広場の開催は3回目のイベントということになりました。今年は「ヘラルボニーアートパーク」というのがコンセプトです。いろんな人たちが当たり前に集える公園というのをテーマにしています。 皆さんお分かりになりますか? この下に敷いてある青は、実は公園にある池なんです。 この 3つの高いアートは、 噴水をイメージしています。 多様な人たちが当たり前に来られる公園っていうものをコンセプトにしているんです。

堀井:実は今日は雨が降っているんですが、ここにいると、すごく天気がいいなと思いますね! ここに飾られたヘラルボニーのアートは、もう私たち馴染みがあるもの、よく目にするアートという印象になってきましたよね。

松田文登(以下、文登):そう言っていただけると嬉しいです。 作品を見た瞬間に、「あ、あの作家さんだ」という風に認識されるという形をつくりたいと常々思っています。 こういったイベントをきっかけに一人の作家を知る機会になると嬉しいですね。

堀井:初めてお会いした3年前というのは、その後の飛躍のためのエネルギーを蓄積しているタイミングだったと思うんです。とても強い意志を持たれていると感じていました。それでスタッフとも、そういう思いは届けたいねという話をしていたんです。

司会:そこからヘラルボニーを好きになっていただいて、ワンピースも自身でご購入いただいたと伺いました。

堀井:そうなんです。fuco:さんの「シアワセピンク」というワンピースを購入しました。ポッドキャストの収録のときに崇弥さんと、商品の価値をきちんと届けたいですよね、というお話をしていたんです。
ちょうどその頃、知り合いが障者就労支援施設でクッキーを販売していて、とても美味しいのにビニール袋に入って50円くらいで売られている。でも「これ、代々木上原で出したら1,000円で売れるよね」なんて話をしていたことがあって。
市場に出すときには、ちゃんと商品としての価値が伝わる見せ方をして、正当に評価してもらうことが大事だよね、という話なんです。それで私はまず自分でホームページを開いて、ヘラルボニーの公式サイトでそのワンピースを見て、「素敵だな」と思って購入して、インスタに上げようと思ったんですけれど……私が着ることで商品の価値を下げてしまったらいけないなと思ってしまって(笑)。
なのでスタジオでカメラマンに撮影してもらって、ワンピースが一番きれいに見える形で撮っていただいて、それをインスタにも投稿させてもらいました。

(撮影:キムアルム)

司会:鮮やかなピンク色のワンピースが堀井さんにお似合いでしたね。 それまでは放送局のアナウンサーでいらしたってこともあって、結構控えめな色やデザインのお洋服をお召しになることが多かったんですね。

堀井:そうですね。アナウンサーという仕事柄、これまでは黒やベージュなど控えめな服を選ぶことが多くて、派手な柄物を着ることはほとんどありませんでした。でも、fuco:さんのワンピースは鮮やかな色と丸いモチーフが本当にハッピーな気持ちにさせてくれる一着で、直感的に着ているだけで自分まで明るくなれたんです。

fuco:さんの作家ページはこちら>>

司会:その鮮やかなアートを身にまとうという点では、ご自身のお気持ちにはどんな変化がありましたか?

堀井:もう「見てください!」ですね。ビビットなものを着ると、やはり私もハッピーな気持ちになるのと同時に見ている人も気持ちがいいんだろうなという風に思いました。お二人も今日の服装、本当に素敵ですよね。これは、これはどういう作品なんですか?

崇弥:ありがとうございます。今日着ているのは水上詩楽さんという作家さんのものです。

ずっとクロスを描き続けていくという滋賀の作家さんの作品です。最近はJALのエコノミークラスの機内サービス用の紙コップのデザインに採用されました。それをきっかけに、本当に飛行機に乗ったりとか、いろんな形で羽ばたいてる作家で、最近<ANREALAGE(アンリアレイジ)>とのコラボレーションでは、2026年春夏コレクションに水上詩楽さんの作品が採用されるなど、ファッションの領域にも表現の場を広げています。

水上詩楽さんの作品はこちら>>

今年へラルボニーは、パリ・ファッションウィークに初参加。<ANREALAGE(アンリアレイジ)>2026春夏コレクションにてコラボルックを発表。

堀井:すごいですね。そういった才能があって、それをちゃんと見つけ出して、ちゃんと商品にして財産にしていく、ヘラルボニーの存在っていうのは心強いなと本当に思います。

崇弥:私は10年前、24歳のときに東京で働いていたんですが、『いつか福祉施設をやりたい』『30歳までに起業して、兄が豊かに暮らせる場所をつくりたい』と考えていました。そんなとき、岩手の実家に帰省した際に、母に『東京で障害のある人が描いたすごいアートを見た』と言ったんですね。そしたら母が『岩手にもそういう場所があるのを知らないの?』と勧められて訪れたのが、るんびにい美術館でした。


命のミュージアム るんびにい美術館
住所:岩手県花巻市星ヶ丘1丁目21-29
開館時間:10:00~15:30
休館日:水、日、第4火曜


そこで初めて障害のある人が描いた作品を目にし、その圧倒的な表現に大きな衝撃を受けたんですよね。すごく感動して。一方で、先ほどのクッキーの話にもつながるんですが、インターネットで“障害者アート”と検索すると、『頑張っていて偉い』『福祉的に素晴らしい』という文脈で語られることが多くて、作品そのものの価値が正当に評価されていないことに違和感を覚えていました。

それは、知的障害のある兄が昔から『かわいそう』と言われてきた経験とも重なって。だからこそ、そういうものをバコーンとひっくり返して『素晴らしい作品を、素晴らしいものとして世の中に届けることができれば、人々のイメージや価値観を変えられるのではないか』。その思いが、7年前にヘラルボニーを創業する原点なんです。

堀井:ああ、こうだったらいいのになとか、こうならないかなみたいなぼんやりな気持ちって、多分いろんな人の心の中にあると思うんですけれど、それを形にして、気づけばこんなことになっていたというのがヘラルボニーのすごさであり、お二人の力ですよね。もちろん、その背景にはたくさんのご縁や、多くの方々との出会いがあったのだとも感じます。

文登まずは、本当に作品が素敵だなというのをシンプルに思えるっていう、そこがすごい大事なんじゃないかなと思っています。 みんなそう思っていても、どうしてもか発信の仕方とか伝え方によって“障害アート”という風にラベリングされてしまう。そうじゃないフラットなダイレクトな思いをどう届けるかっていうことが大事ですよね。

堀井:最初の頃に私たちが捉えていたような、ヘラルボニー=(イコール)福祉、いわゆるスタートアップという印象をもつ人も多かったと思いますが、最近では先ほどのJALをはじめ、さまざまな場所でヘラルボニーのアートを目にする機会が増えています。そうした広がりの中で、世間のヘラルボニーやアートに対する見方が変わってきていると感じることはありますか?

崇弥:もう少し、というところですかね。私たちがすごく大切にしているのは、『障害のある人が描いた作品だから』ではなく、まずは『かわいい』『素敵』『かっこいい』と感じてもらうことです。SDGsや福祉だから商品を選ぶわけではない。だからこそ、店舗づくりも、ホームページも、ビジュアルも、最初に純粋な魅力が伝わることを強く意識しています。

“いいことだから買う”だけでは、購買行動にはつながらない。大切なのは、モノとして魅力的であること、世界観に惹かれること、そしてワクワクすること。そこに妥協せず、本当に良いものをつくり続けることが重要だと思っています。

堀井:世の中の見方は、もうかなり変わってきていますよね。以前は『ヘラルボニーだから応援したい』『何か力になれたら』という気持ちで手に取る人も多かったと思います。でも今は、『素敵だから手に取ったら、それがヘラルボニーだった』という逆転現象が起きている。その変化がとても素敵だなと。

自由なアートに宿る純粋で特別なエネルギー

司会:堀井さんはもともとアートはお好きだったんですか?

堀井:私はアートに詳しいわけではないのですが、40代前後の頃、少しだけ自由に使えるお金ができた時期があったんです。ブランド品やジュエリーではなく、なぜか『絵を買いたい』と思うようになって、京橋や銀座のギャラリーに通って、何点か作品を購入しました。家に持ち帰ると夫に『何これ?』と言われそうだったので(笑)、買った作品はしばらくTBSのアナウンスセンターのロッカーにしまっていました。

文登えー!すごい。ロッカーにアート!

堀井:本当に小さな作品ばかりでしたが、半年に一度くらい、誰もいない週末のアナウンスセンターで、ロッカーから作品を全部出して並べて陰干しするのが密かな楽しみでした。
一番最初に欲しくて手に入れたのが、作家・山本容子さんの作品です。黒い線で描かれた繊細な線画の上に、ふんわりとした景色が重なるような小さな作品で、その世界観に強く惹かれました。当時の自分にとっては決して安くない金額でしたが、思い切ってシリアルナンバー入りの作品を購入しました。

司会:ヘラルボニーのアートはどのようにご覧になっていますか?

堀井:その後、私のアート遍歴は少し変わっていきました。千葉のDIC川村記念美術館にあったロスコ・ルームに通って、マーク・ロスコの作品に惹かれる時期がありましたし、息子が気に入ったことをきっかけに、ニューヨークのポップアーティスト、ジェームズ・リジィの個展にも何度か足を運びました。たくさんの人や動物、街の風景がぎっしりと描かれたリジィの作品には、不思議な躍動感と多様なものが共存する楽しさがあって、その世界観に魅了されたんです。

ヘラルボニーの作品を初めて見たとき、私はそのリジィの絵を思い出しました。そして何より感じたのは、こう『描きたいから描いている』という純粋なエネルギーです。緻密な計算やゴール設定というよりも、描きたいという衝動のままに筆が進んでいく。その結果として生まれた作品だからこそ、私たちはそこから力強さやエネルギーを受け取るのだと思います。やりたいように、自由に描かれた作品こそが、一番すっと心に落ちてくるんだろうなと思いますね。

崇弥:やっぱり社会的な価値観ってありますよね、例えば『阪急うめだ本店で個展を開きたい』『作品を高く売りたい』とか。そこから逸脱しているというところにすごく面白さやワクワクする表現がある。例えば18歳のダウン症のあるへラルボニー作家・marinaさんも、何冊ものノートに同じ文字をびっしりと書き続けています。私たちであれば、『この作品が売れたから次もこうしよう』『今はこういうものが求められている』と、どうしても社会や市場から影響を受けてしまいます。でも、彼らは純粋に“やりたいからやっている”。そもそも自分をアーティストだと思っていたり、『アートを描いている』という意識すらない場合もあります。

marinaさんの作家ページはこちら>>

だからこそ、その純粋な表現には特別な力が宿っているのだと思います。そして私たちは、その表現を社会へ届ける立場として、大きな責任を持って向き合っていかなければならないと感じています。

文登確かに本当の意味でのオリジナルというか、とてもプリミティブな、本当にそれを描きたいということへの純度がとてつもなく高いとていうのは感じますよね。

後編では、アートの世界に挑む際の思いや打破すべき障壁などのお話に続きます。

▪️堀井美香さんトークセッション--ちゃんとできない自分のままで、生きていく。後編