HERALBONY STANCE FILM #スタンスを着る
「おしゃれな人」ってどんな人のことを言うのだろう。
わたしたちは「おしゃれ」の定義を、単に見た目の美しさだけではなく、自分の中に軸となる価値観や精神性があり、それを客観的に見つめ、理解し、自分らしく表現できていることだと考えました。
HERALBONYを選ぶということは、“わたしが大切にしている何か”を語るということ。これは、HERALBONYが贈る新感覚のスタイリング企画。モデル、スタイリスト、アーティスト――ファッションの最前線を行くあの人が、HERALBONYをまとい「自分のスタンス」を表現します。
第4回は、ヴィンテージ商品の買い付け・提案を行っている「ident(アイデント)」の井手寛恵さんが登場。2019年よりジャンルにとらわれない独自のセレクトを強みに活動を続けている。世田谷区内にて約5年間の実店舗営業期間を経て、現在はサービス対象を国内外の一部の顧客向けに限定し、新たな展開を模索。一見難しそうな柄物やデザインの古着を今風に1つのスタイルにまとめ上げるのが井手さん流。そんな彼女が、作家・森啓輔の「青春のバラード」のスカーフを自身のお気に入りの古着を使ってアレンジします。
ファッションは日々の心の移ろいを映す自己表現
井手寛恵さん(以下、井手):自分を表現する手段としてファッションは欠かせません。「今日はこういう気分だからこのスタイルにしよう」「明日はきっとまた違う気分だから」とその時々に合わせてコーディネートを考えます。この連続性の中で自分らしい表現が生まれてきて、最終的な集合体が自分の作品になるような感覚がありますね。
―――今回ヘラルボニーのスカーフを着用してみていかがでしたか?
井手:スカーフを見た時に、色合いが素敵でとても好みでした。この色合いやドレープの美しさを綺麗に見せたいし、ヴィンテージのガウンもうまく一緒に合わせたいと思いました。そこで、スカーフをガウンの中に合わせることで主張しすぎない着こなしにまとめつつ、全体を同系色に仕上げました。
スカーフから漂う優しいけどポップな色のニュアンスと、古いシノワズリ調のガウンの相性がいいなと思ったんです。このスカーフがお互いの良いところを引き立てつつ、優しく中和してくれました。
―――今回セレクトされたスカーフは、森啓輔さんの「青春のバラード」という作品です。
井手:正方形のフレームに対して、人の顔がインパクト強くでていて勢いを感じます。強い印象になりそうなのに、よく見るとどれも穏やかな色を採用しているので、結果として圧がありすぎないところがお気に入りです。大胆なインパクトだけでなく、優しさを持ち合わせていますね。
一度、立ち止まる期間も大切に

>>栗原 汰希(Taiki Kurihara)|シルクスカーフ「タイトル不明」はこちら
―――井手さんはセレクトショップ「ident」を手掛けていらっしゃいます。
井手:物心がついた頃から洋服を身にまとうこと、特にコーディネートを考えることが大好きでした。ファッションは私にとって、アイデンティティを表現するうえで切っても切り離せないものです。そこから「アイデント」という店舗名をつけたヴィンテージのセレクトショップを東京の豪徳寺に開いていましたが、昨年に休止しました。
―――休止にあたり、どのような心境の変化があったのでしょうか。
井手:私にとって「ident」は、自己表現や自己実現の場。いつかの時代に誰かが作ったものの中から、自分の琴線に触れたアイテムを揃えた空間全体が自分の作品だという意識が強くありました。
そんな自分だけのキュレーション空間にどっぷり浸かっていたいという気持ちはあるんですけど、今年40歳という節目を迎えるにあたり、生活のベースを一旦整理して見直したいと考えるようになったんです。今の能力や力量だけでは、この先長くお店を続けることが難しいとも感じていました。
そこで今はちょっとだけファッションと距離を置いて、意識的に違う環境に身を置いています。冷静に自分のことを俯瞰して見られるようになってもいて、それが最終的にいつか「アイデント」を再開させる時の良いエッセンスとして還元できたらいいなと考えています。
障害のある妹が描いたイラストを商品化したい

―――ヘラルボニーを知ったきっかけを教えてください。
井手:ヘラルボニーとの出会いはInstagramでした。「自分がまさに“ずっとやりたいと思っていたこと”を実践している企業があるんだ!」と本当に強い衝撃を受けて、心が震えたんです。
―――ずっとやりたいと思っていたこととは、どんなことだったんですか?
井手:3人兄妹の一番下の妹が知的障害を持っています。ある時に、妹が描くちょっぴり味わいのある可愛いイラストを見て、「この絵をすごくイケてるプロダクトにできないかな?」とか、「私がブランディングして売り出せないかな?」とか、勝手に妄想していた時期がありました。
ポイントは、障害者と健常者の線引きがなく、ボランティア精神などでもなく、「なんかこれ、めっちゃいいよね」と心から思えるもの。「障害者が作った作品」という見え方なしでプロダクトとしてクオリティーが高い「イケてるもの」を作れたらいいなと、具体的に考えていたんです。ヘラルボニーさんがそれを体現されていたことを知り、めちゃくちゃ驚きました。正直な話、涙も出てきちゃったくらい(笑)。それくらい、心が震える出会いでした。それ以来、ヘラルボニーが発信する情報はチェックしていて、応援しています。
“ちぐはぐな私”だからこそできることがある

―――この連載「HERALBONY STANCE FILM」では、その人の大切にされているスタンスや価値観について伺っています。日常での暮らしやファッションにおいて、大切にしていることはありますか?
井手:私はすごくバランスが悪い人間なんですよ。能力にばらつきがあって、日常生活で生きづらさを感じています。でも、その“ちぐはぐ”なことは、自分の強みかなと思っています。
私自身のちぐはぐさとか凸凹した部分が、一番現れているのがファッションです。さまざまな要素を、教科書通りではない組み合わせで上手にまとめたくて。ともすると素っ頓狂なものとか色合わせでも、スタイリングとして完成させることを意識しています。混沌としたものを1つにまとめて成立させたい。それが結果的に、自分らしい表現になっている気がしますね。
井手寛恵さん着用アイテム / 作家紹介
三重県にある福祉施設『希望の園』に在籍する作家・森啓輔(Keisuke Mori)は、17歳から油絵を始め、レコードジャケットをモチーフに長年油彩を描き続けている。丁寧に練られた油彩絵具特有の色彩感と、明度差の激しい画面作りが特徴的で、国内外の展示会で確かな評価を得続けている。
>>森啓輔(Keisuke Mori)|アイテム一覧
作家の筆使いを忠実に再現したスカーフは、シルク素材100%。88cm×88cmという大判サイズで、さまざまなスタイルをお楽しみいただけます。
>>アイテムはこちら
Profile
井手 寛恵
パーソナルヴィンテージバイヤー
2019年、豪徳寺にてヴィンテージストア『ident』をオープン。店名はアイデンティティに由来し、ジャンルレスなセレクションおよび独創性のあるミックスコーディネート提案を強みとする。約5年間の実店舗活動を経て、現在は同屋号の下、国内外の顧客向け買い付け・提案・販売を行う傍ら、腕時計の修理・販売業に従事し、今後の展望を模索している。
Instagram: @phiroe_firoe / @ident_tokyo